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2012年12月26日水曜日

21. アブリル


アブリルは、対応に追われていた。 



インフォメーションでは、次から次へとひっきりなしに電話や映像通話がかかってくる。


そして、1時間前ほどから、普段と比べるとあり得ない量の問い合わせが殺到していた。


用件はわかっている。


4時間ほど前、トップキャビネット内はあわただしくなり、男の情報が流れるようになった。


なんでも、統合ワープシステムに登っているという、冗談のような知らせである。


すぐさまセキュリティが動き、数機の飛行ロボや、サイボーグが出動したが、思いのほか彼は粘り、身柄を押さえることができない。


さらに、飛行車や、かなりの数の飛行隊を足しても、彼を捉える事が出来ず、その驚異的な運動能力は、セキュリティ、ないし、トップキャビネットのオリジンには予想外であった。


そして、当然その他オリジンにとっても予想外であり、セキュリティカメラの映像の視聴率は見る見る上がっていったのだった。


セキュリティは何をしている、早くとっちめろ、のように批判的なものもあれば、スポーツ分野などで、彼は誰なのかを教えてほしい、と言った類の、スカウト要素のある問い合わせも、徐々に増えた。


最初のうちは、それについての電話はあれども、数こそ30分に数件程度であった。


それが、その後3時間で見る見るうちに増え、今や休む暇もないほどにやかましい音が鳴り響いている。


上記に述べたような件についてももちろん増えたが、何より1番多かったのが、一般市民による抗議で、「早く捕まえろ」と言った類のものではなく、「やり過ぎなのではないか」、「非道だ」などの、セキュリティ側のやり方を責めるものが圧倒的であった。


実際に、オリジン1体に対し、あの量の戦闘機はぞっとするが、それ以上に、ただひたすらと登り続ける姿に、多くのオリジンが心を寄せ、惹かれているのである。


そう言うわけで、その苦情の全てに対応し、説明をするのが、トップキャビネットインフォメーションの役目であり、アブリルが対応に追われている理由であった。


1件の苦情対応が終わり、アブリルが一息つこうとすると、すぐに、ピーン、ピーン、と、電子音が鳴る。彼女はうんざりしていた。

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2012年12月22日土曜日

20. 登る男4


一瞬たりとも、考えなかったの



トップキャビネットは、考えなかったのだろうか―――これはやり過ぎだと。

レーザーなど、一発当たれば身体を突き抜け、周りの細胞まで焼死してしまうというのに、あの数のレーザーで打ち抜かれたオリジンが(ロジはオリジンではないが)、どうなるかを予想したのだろうか。

何かほかにも方法があったのではないかと考えてしまう。



ウィーンが一瞬で思いを巡らせたのは、そのようなことだったが、それには何の意味もなく、ただ遅かった。

映像が、数機体にさえぎられるが、やがてカメラが対象をとらえる。



ロジは無事であった。


やはり、その場にいた何人かは同じようなことを考えていたようで、安堵のため息を漏らす。

どうにかしてレーザーをよけたようだ。

ぶら下がったままだったが、すぐに体勢を立て直し上へと飛び跳ね、再び応酬が始まり、無数に打ち込まれる光の束を、くるくるとよけながら進む―――彼の通った後には、赤い血が滴っていた。何本かのレーザーは避けられなかったようだ。

 
「ここまでやる必要があるのか。あのレーザーを全部浴びたら、即死だろう」

画面にはずらりと何十機もの機体が群れていて、一斉攻撃を繰り返す。壁を這いあがるスパイダーサイボーグからも、レーザーをはじめ、物理攻撃も仕掛けられる。

どう考えても一人の人間に対する戦力ではなく、次々に光を放ち、対象を狙い続ける群れからは、戦争のような残酷さすら感じられた。

やりすぎだった。

ムキになっているにしても、子供の喧嘩レベルではない。


「ここまでして何がしたいのだ・・・」

誰かが言ったが、それはもっともだ、とウィーンも思った。


しかし、不思議なことに、ここまで、ある種の執念を持ち、必死になっている姿を見ると、頭がおかしいと思うのと同時に、この男に興味が湧いてくる。一種の同情のような感情で、目の前に移る、もはや血まみれの男に惹かれてしまう。


「何も考えてないだろう・・・迷惑には変わりない」

そう言うものもいたが、一切表情を崩さず登り続ける彼は、みているオリジン全てに対して、確実に、自分の方への流れを作っていた。



ウィーンは考えていた。



「みんな」






「彼を救おう」

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2012年12月21日金曜日

19. 登る男3


動揺した。

映し出された細身の男は、まぎれもなくロジであった。

どうして?―――どうやって―――?

このままではセキュリティに捕まってしまう。

どうすればいい。

ここでロジが捕まれば、全ての計画は台無しになってしまう。

あいつは何をしているんだ? 

頭を働かせるために、必死で心を落ち着かせようとした。



「最初より危なっかしくなったな」

横にいる男がいった。画面を見ると、確かに、ロジの動きは遅くなっているように感じた。それでも、次々に迫る攻撃を受け流しながら進む運動能力は脅威に値するが、少しずつ疲れていっていることは明らかで、ウィーンをさらに焦らせた。

どうすればいいのか考えつかない言い訳をするように、ウィーンは画面に映るロジを見つめていた。

見れば見るほど、美しい動きである。
手が進み、足が進み、回転し、飛び跳ねる。

その場にいる全てが、するべきことを忘れてしまうような、つい見入ってしまう動きであった。



「何者なんだ。こんな動きは見たことがない」
「地方ものか?どうして今まで無名だったんだ?

オリジンでは、ワープシステムによって、どれだけ地方出身であっても、自分をアピールするチャンスはあり、いわば、この機会均等により、各分野全体でのレベルの底上げがなされたのだ。



住所を聞かれた時の為に、ロジには地方のものを与えてあるが、あれだけ目立った後で、それが通用するかどうか、ウィーンは不安だった。

それ以前に、あれで言い逃れができるとは思えない、さらに、よりにもよって統合ワープシステムときたら、何らかの処分が下ることはもはや逃れようがなかった。



そんなウィーンの気持ちも知らず、連なるロボットたちを押しのけ、彼は塔を登る。

数機の飛行体が再び隊列を組み、レーザーを放とうと狙いを定め、さらに、左右上下からも数機、全体としては、かなりの数の機体に、ロジは囲まれ、低範囲高密度のレーザーが、高範囲高密度で、針山のように降り注ごうとしていた。

予測不能なジャンプと宙返りによ危機回避、イタチごっこが結果として、パフォーマンス性を生んでいた。



―――ロジは、足を踏み外し、片手で柱にぶら下がる。

皆が息をのむ。



攻撃が一斉に襲いかかった。

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2012年12月20日木曜日

18. 登る男2


光る壁を登っていた。

登り始めた瞬間、異変に気付いたが、かまわなかった。

まもなく、小物体がロジへと接近し、奇妙な光を放ち始め、次々に飛んでくる攻撃を避けねばならないようになったのだが、ロジは柱から柱へと飛び移り、登り続けた。

ロジにとって、否、RU連合(リソースアップ連合)に所属するリトルスピーシーにとっては、山に登ることは日常であった。RU連合(リソースアップ連合)とは、ウィルダネスにおいて、ナチュラルリソースを生活に役立てることができるようにコントロールする組織のことだ。

もちろんウィルダネスにも科学技術はあり、常に、山を身体一つで登らなければいけないということではなかったが、RU連合(リソースアップ連合)は、仕事上、火山を管理しなければいならない時の為に、身体だけはかなり鍛えられる。

それに、リトルスピーシー全体としても、オリジンよりは、丈夫な体や筋肉を持っていた。
 
上へと登るにつれ、三角形をした飛行物体や、星のような形のものが徐々に増えた。

一斉に、突進をしたり、レーザーをうちこんだりしてくるが、ロジは反射神経と勘を使い、身体を動かした。久しぶりに動いたので、からだが重いと感じたが、どうやら、それだけではないようで、オリジンの身体は、リトルスピーシーのそれとは仕様が違うのだ、とロジは気付いた。

地面がかなり遠くなり、空気も肌寒く感じるようになってきた。さらに、白い球体に何本もの脚が付いている、まるで蜘蛛のような見た目のサイボーグも現れ、―――どうして壁をよじ登ってこられるのかは全く謎であったが―――その脚でロジをとらえようとしていた。

また、空飛ぶ機体は驚くほど増え、飛行車なる、オリジン自身が操縦するものまで現れた。情報は全て画面型PCが教えてくれたのだった。

自分でもどうして壁をよじ登っているのかわからなかった。もし聞かれたら何と答えようか、運動不足解消とでもいおうか、などと考えながらも、ロジはものすごい勢いで壁をよじ登って、飛び上っていった。ただ、頂上を見てみたかった。そびえたつ嘘の山の上からはどんな景色が見られるのか、知りたかった。攻撃はますます激しくなり、ロジは休むことなく動き続けた。

その時、1台の車が、急に、1メートルもないところまでスピードを上げ近づいた。

その表情からはなにも読み取ることはできなかったが、ロジは車に乗るオリジンをみた。

車に着くレーザーの銃口を自分へと向けていた。

考えなかった。

上へと動いていたが、そのまま勢いで車上部へと飛び乗

ロジがいた場所には、太いレーザーが照射され、反射されていた。

間をおかず、柱へと飛びつく。

よろけているのを一瞥し、再び上へと向かう

ついに、ロボットたちは列をなし、レーザーや一斉衝突で攻撃をしてきた。ロジは、素晴らしい連携だ、と思ったが、身体に任せ、構わずよじ登っていく。

勢いは止まらない。

縦に列をなして、レーザー攻撃を繰り返す、三角形や星型の飛行体を踏みつけ、一気に上へと登り、飛行体の届かないところまでゆく。

それをまた飛行体が追いかけ、さらにロジが逃げる。

それをものすごいスピードで繰り返すのは、美しかった。

頂上はまだ見えない。

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